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派遣社員に労災が起きたら④
民事損害賠償請求
民事損害賠償請求
労災事故発生後、特に重篤な労災事故に被災してしまったというケースで見られますが、被災派遣社員から何かしらの補償要求を受けることがあります。
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これは事故にあったのは派遣先・派遣元の安全管理体制に落ち度があり、各種法令を遵守していないことなどによる安全配慮義務違反があったためだとして障害が残ったことによる逸失利益や、精神的苦痛による慰謝料を請求するというものです。ですから障害等級が出る程度の怪我や病気になってしまった様な場合に請求されることが多いです。障害等級が出ない労災事故ではまず要求されることはありません。また労災に認定がされていない段階では、請求されることは、まずありません。労災として業務上の傷病であると認定され障害等級が確定した後には、生涯の重さに応じて請求されるケースが出てきます。
いわゆる過労死や過労自殺についても、遺族が労働基準監督署長に労災認定の申請をして認められた場合には、会社の責任を損害賠償請求訴訟で追及するということが珍しくありません。この場合に会社の責任を、安全配慮義務違反として問うこととなります。安全配慮義務を根拠とした民事上の損害賠償請求では、労働災害によって生じた損害の内容や程度によって賠償額が認定されますし、精神的損害に対する慰謝料も認められます。
請求では派遣元・派遣先の安全配慮義務違反があったことを労働者側が立証していかなければなりません。反対に派遣元・派遣先は違反が無かった事を立証する構図です。
主な争点となる諸法令
労働契約法
第三条4
『労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない』
第五条
『使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。』
労働基準法
第百六条
『使用者は、就業規則を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない』
(『安全及び衛生に関する事項』の規定が存在し、危険行為禁止、危険予知、作業手順遵守、注意義務などの安全衛生に関する規則を示し注意喚起する。)
労働安全衛生法
第三条
『事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。』
第五十九条
『事業者は、労働者を雇い入れたときは、当該労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行なわなければならない』
同条2
『前項の規定は、労働者の作業内容を変更したときについて準用する』
労働安全衛生規則
第四章 安全衛生教育第第三十五条
事業者は、労働者を雇い入れ、又は労働者の作業内容を変更したときは、当該労働者に対し遅滞なく次の事項のうち当該労働者が従事する業務に関する安全又は衛生のため必要な事項について教育を行なわなければならない。
一 機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法に関すること。
二 安全装置、有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱い方法に関すること。
三 作業手順に関すること。
四 作業開始時の点検に関すること。
このような労働関係諸法令違反を根拠に、安全配慮義務違反を主張されます。
請求の内容
休業期間中の賃金100%
怪我や病気で働けなかった分を補償して下さいというもの。
障害により労働稼得能力の喪失が長期化し固定化した場合の逸失利益
怪我や病気で障害が残ってしまった場合に働く能力の低下によって今までよりも稼ぐ能力が失われた分の保障です。
精神的苦痛による慰謝料
(通院慰謝料・後遺症慰謝料、障害慰謝料、死亡慰謝料)辛い、苦しい、悔しい思い等。
一般的には、労働者災害補償法からの給付や一時金として受けた分は一定の項目につていて相殺されます。
実際の実務の現場では、派遣先単独或いは、派遣先と派遣元双方に対して請求されるケースが多く、派遣元単独で請求対象となることは少ないと思われます。これは、労働者派遣契約の場合には職場の安全配慮義務は、派遣先に実質的な義務と裁量の幅があり派遣元よりも責任を問い易い為だと考えられます。
安全配慮義務とは
「法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として、一般的に認められるべきもの。」(陸上自衛隊八戸車両整備工場事件)を意味しています。
信義則上とは
契約をかわしたら、その相手方に対して期待される信頼を裏切らない様に誠実に誠意ある行動を求められるというもです。
契約したんだから、ちゃんとやってくれるだろうという信頼関係が大前提としてありますと言っています。
派遣先にも安全配慮義務は問えるのか
派遣先や請負契約における元請け企業などの安全配慮義務が争われたケースで判例として積み重ねられ確立されてきたものに派遣労働者と直接雇用関係のない派遣先等でも安全配慮義務が生じると認められる為には「派遣先等が派遣社員と特別な社会的関係に入った」とされることが必要です。そのための要件として
が挙げられています。 因みに、損害賠償請求権の消滅時効については「不法行為」は3年、「安全配慮義務違反」の場合10年とされています。
この様に損害賠償請求を受けた場合は、派遣先、派遣元の連携が大事になりますので、営業担当者は要求があった場合には速やかに会社へ報告して、会社は派遣元として派遣先への連携の呼びかけ、及び対応の方向性などを両社で検討していくと同時に安全配慮義務の実施状況等チェックを進めて行く必要があります。
労働災害による死亡者数は昭和40年代には、年間5,000人を超えていましたが、昭和50年代には、3,000人を下回り、現在では、1,000人程度となっています。長年かけて安全配慮義務を浸透させていくことが、効果的であることは証明されています。一方で、現在でも危険な現場が数多くありますから、営業現場レベルでは、日頃の派遣社員に対する接触も安全衛生管理の観点から見て変わったことはないか、危険な作業手順はないか等、重要で意義のある業務です。常に安全配慮の意識をもって行動することが、派遣社員を労災事故から守ることに繋がる重要な活動であることを自覚し行動したいものです。
いかがでしょうか。わずかな違いの繰り返しと時間の経過により自然と結果が大きく違ってくるということは、細部の仕組みまでもが重要であることを理解しているか否かの違いです。それは企業価値を左右するとても重要なことです。頭でわかっていても実行に移せるかどうかが重要です。興味をお持ちの方は、ぜひお気軽にお問合せ・ご相談ください。